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京都地方裁判所 昭和52年(行ウ)8号 判決 1978年8月04日

原告(選定当事者) 松岡与一

被告 亀岡市長

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判及び主張

次に付加する本案前の答弁及びその理由のほかは別紙要約調書のとおりである。

(本案前の答弁)

主文と同旨。

(本案前の答弁の理由)

原告松岡与一は、昭和五二年四月一九日、被告に対し、本件差押処分につき地方税法一九条の四第二号により異義申立てをなしたが、行政不服審査法(以下「行審法」という。)四五条所定の異議申立期間を経過しているとの理由で同年五月一七日付で却下された。

他の選定者二四名については、右の異議申立手続も経ていない。もつとも、原告松岡与一の右異議申立書に本件訴状の写が添付されてはいるが、原告松岡与一を異議申立の総代と選定する書面の添付がないから、これをもつて右選定者二四名の異議申立とすることはできない。

結局、原告の本件訴えの提起にあたつては地方税法一九条の一二により要求される適法な不服申立てが経由されておらず、本件訴えは不適法として却下されるべきである。

第二証拠<省略>

理由

一  本件差押処分の存在及びその日時については当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、本件差押処分について、昭和五二年四月一九日付で原告松岡与一名義で被告に対して異議申立てがなされ、右異議申立書には本件訴状の写しと訴状に添付の本件選定者らの選定書の写しが添付されているが、右選定者らが右異議申立てにつき松岡与一を総代として互選した旨の書面の添付(行審法一一条、一三条参照)はなかつたこと、右の異議申立てに対し、被告は同年五月一七日付で原告松岡与一に対して、本件差押処分の通知が原告松岡与一に差置送達されたのが昭和五二年二月五日であり、右異議申立ては行審法四五条の異議申立期間経過後になされ、右期間経過につきやむをえない理由があるとの主張もないとの理由により不適法として却下したこと及び本件差押処分については未だ公売期日が到来していないことが認められ、また、本件訴状が昭和五二年四月一五日に当裁判所へ提出されたことは記録上明らかである。

二  ところで、地方税法一九条の一二は地方税についての滞納処分の取消訴訟の提起には、当該滞納処分についての不服申立てを経由することを要件としているのであるから、右不服申立てを経由しないでなされる滞納処分の取消訴訟は原則として不適法なものというべきである。そして、右不服申立てが不適法なものとして却下された場合には、当該却下処分が正当である以上、特別の事情がない限り、取消訴訟も適法な不服申立てを経ていないものとして不適法と解すべきである。もつとも行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)八条二項各号所定の事由の存する場合には、不服申立てを経ない取消訴訟の提起も適法であることはいうまでもない。

更に、地方税法は、滞納処分の不服申立期間につき特例(一九条の四)を設けているが、その趣旨は、滞納処分が督促、差押え、換価、配当という一連の手続からなり、第三者の利害にも関係するところから、その各手続の早期安定化を図るため、滞納処分の各手続に関する不服申立期間を特に制限したものというべきである。右不服申立期間の制限と行審法四五条の異議申立期間の制限との関係については、およそ行政処分に対する不服申立期間の制限は、行政処分の効力を早期に確定させ、法律関係の不安定を除去することが行政の性質上特に必要とされるためであり、行審法四五条も右の趣旨に出たものであること及び前記の地方税法一九条の四の趣旨に鑑みれば、右地方税法の規定は、行審法四五条所定の異議申立期間を伸長するものと解すべきではなく、従つて、右各所定期限のうちいずれか早い期限までしか不服申立てをすることができないものと解するのが相当である。この点は、国税に関する滞納処分に対する不服申立期間について、国税徴収法一七一条一項で特例を規定するが、この不服申立期間の特例が国税通則法七七条の不服申立期間を伸長するものではないこと(国税通則法七七条所定の異議申立期間を経過したものは国税徴収法一七一条一項の特例の適用から除外される)としていることからも窺うことができるところである。

三1  前記一の認定事実によると、原告松岡与一以外の本件選定者らについては、原告松岡与一名義の異議申立書に本件訴状と選定書の写しを添付したというのみでは、未だ右選定者らによる適法な不服申立てとは認められないから、右選定者らについては不服申立ての手続を経由していないものと言うほかなく、その不経由について行訴法八条二項各号所定の事由がある旨の主張、立証も無いから、結局その訴えは不適法であること明らかである。

2  次に、原告松岡与一に関し本件訴えの適法性の有無について考えるに、前記一の認定事実によれば、原告松岡与一についても本件訴え提起の前に所定の不服申立てを経由しておらず、その不経由につき行訴法八条二項各号所定の事由がある旨の主張もこれを認むべき資料も存在しない。仮に本件訴え提起後なされた前記異議申立てを考慮するとしても、本件については地方税法一九条の四、二号の公売期日が未到来であるとはいえ、本件差押処分についての通知が差置送達され、原告松岡与一が右処分を知つたものと認められる昭和五二年二月五日の翌日から起算して本件異議申立ての日である同年四月一九日までに行審法四五条所定の異議申立期間(六〇日)を経過していることが明らかであり、本件では右期間経過につきやむをえない事情の主張立証もないから、右期間経過を理由とする本件異議申立却下の決定は正当であり、右異議申立てをもつて適法な不服申立てを経たとすることはできない。結局原告松岡与一についても適法な不服申立てを経由していないから、本件訴えは不適法と言うほかない。

四  以上によれば原告の本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井玄 野崎薫子 岡原剛)

(選定者目録及び目録 省略)

(別紙)

要約調書

(原告)

第一当事者の求める裁判

(請求の趣旨)

一 被告が別紙選定者目録記載の選定者に対してなした別紙目録記載の差押処分を取消す。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求原因)

一 被告は別紙選定者目録記載の選定者に対し、昭和五二年三月一八日(但し原告については同年一月二八日)に別紙目録記載のとおり、滞納税金があることを理由にその所有物件に対し右滞納税金徴収のため差押処分(以下本件差押処分という)をなした。

二 しかしながら、本件差押処分は以下の理由で違法である。

すなわち、選定者は本件滞納税金についての納税通知書を受理していない。

三 本件差押処分は以下の理由で違憲である。

すなわち、被告は以下にみるように地方自治法に基づく市長としてなすべき行政を行なつておらず、選定者はその生存権を侵害されており、憲法二五条が国民に生存権を保障し地方自治法及び地方税法がそれを具体化していることからみて、被告が選定者の生存権を保障せずに、地方税法の適用を主張することは憲法二五条に違反する。

1 京都府知事は昭和一九年に府道亀岡・池田線を改修したが、そのために一級河川法貴谷川が再三氾濫して下流住民二〇〇戸が浸水し、曾我部農業協同組合も営業不能となり、国がその再改修の必要性を認めているにも拘らず、被告は府知事に同調して反対陳情をしている。

2 昭和四五年の災害により曾我部簡易水道の配水施設が壊滅して上水道が断水したが被告が復旧工事をなさないため原告が私費で配水池及び送水管(以下本件配水施設という)を新設したところ、被告は原告所有の右配水施設につき虚偽の書類を作成して議決したうえ、水道事業に対する知事の認可をえた。

3 市道、一般道路について被告には固定資産税賦課権が認められていないにもかかわらず、南条屋敷線、南条風のロ線、南条南浦竹線その他曾我部町に約四千メートルにわたり課税しており、自治省が右事実を知り、京都府がなした指導にも応じていない。

4 被告は市議会の議決を得て南条地区の市道改修につき予算化しており、その設計に基づき原告が右改修工事を行なつたが、被告はその工事代を支払わず、かつ、南条地区内の市道については通行不能にもかかわらず危険な場所の修理をなさず、原告が私費で市道舗装修理を行つており、他の町村においてはすべて市が予算化して修理を行なつていることからみて原告を不平等に取り扱つている。

(被告)

(請求の趣旨に対する答弁)

一 原告の請求を棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

(請求原因に対する答弁)

一 認める。

二 争う。

被告は選定者らに対し納税通知書を郵送したが、宛先不明、受領拒否等の理由で返送されたものは一通もない。

納税について原告に再三督促、話し合いを行なつたが、納税せず、右滞納は市税についてなされているため、被告は地方税法及び亀岡市条例により賦課、徴収を行なつたものである。

三 争う。

地方自治法による被告の処置と地方税法の納税義務とは別であるから前者を本件差押処分の取消事由とすることはできない。

1 否認する。

2 否認する。

3 否認する。

4 被告は市議会の議決を得て南条地区の市道改修につき予算化しており、その設計に基づき原告が右改修工事を行なつたこと及び他の町村はすべて市が予算化し修理を行なつていることは認め、その余は否認する。

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